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は、いつになくマジである


は、いつになくマジである。いつの間にか、俊春もおなじように距離を詰めていた。同様に、マジなである。

 


 思わず、朱古力瘤 これまでのいろんなことが脳裏にうかんできた。

 


 二人には、あーんなことやこーんなことをずいぶんとやられている。それがすっかりトラウマになっていて、こうして二人に迫られると心底怖ろしくなってしまう。

 


 ごくり。

 


 唾をのみこむ音が、やけにおおきく響いたような気がした。

 


 唾をのみこんだのは、もちろんおれである。

 


「主計、じつはな……」

 


 そんなおれの心の動揺っていうか恐怖心っていうか、兎に角、平常心とはかけはなれまくっている心を揺さぶるように、俊冬が口をひらいた。同時に、思いっきり懐を脅かしてきたではないか。

 


 反射的に一歩ひいてしまった。

 


 この二人に、パーソナルスペースをおかされるのは賢明ではない。会津藩がいまにもどうにかなってしまいそうな危急の事態のなかである。

 おれの悲鳴が丘の上から城下町に響き渡るなんてことになれば、おれはイタイやつとして一生うしろ指をさされまくることになるだろう。

 


 それ以上に、斎藤が自分の子孫に面白おかしく語り継ぐにちがいない。

 


 そうなったら?

 斎藤の子孫は、現代でもちゃんといるのである。

 


 それをいうなら、副長もである。それどころか、近藤局長も永倉もちゃんと子孫の方々がいる。ついでに、井上だってそうである。

 


 だが、井上だけはかろうじてセーフかもしれない。おれがまだまともな時期に戦死したのであるから。

 


 くそっ!忘れていた。井上の甥っ子の泰助は、ちゃんと生きている。しかも、あの子は記憶力抜群な子どもである。

 


 完璧アウトじゃないか……。

 


 おおっと、またしてもかんがえまくっていた。

 


 なにゆえだ?なにゆえ、かんがえてしまう?そりゃあ、「はかんがえる葦」かもしれないが、それにしたって、よくもこれだけかんがえたり想像したりできるものだ。

 


 自分でも不可思議でならない。

 


 ってか、みんなは?みんなだってフツーはかんがえるだろう?

 


「おはよう」って挨拶をかわしたとする。たとえば、その人のの下にクマができていたら?

 


『彼女と一晩中よろしくやってたのかな?』

『どうせ一晩中BDやDVDをみていたか、ゲームでもやっていたんだろう』

 


 そんなふうに想像するにきまっている。

 


 あるいは、上司に話があるっていわれたら?

 


『おれ、なにかやってしまったか?』

『新規プロジェクトのリーダーに抜擢される?』

 


 


 そんなふうにかんがえてしまわないか?

 


 世のなかの人々は、そんなちょっとしたことでもおれのようにかんがえたり想像したりしないのだろうか。

 


 当然のことながら、それはにたいしてだけではない。道をあるいているときに塀の上に猫をみつけたとしよう。

 


『うわー、強そうなにゃんこだ。ここらへんのボスにゃんこかな?』

『助兵衛そうなにゃんこだな。発情期のときはすごそうだ』

 


 ニャンコ好きでなくたって、想像するに決まっている。

 


 それをいうなら、生きていないものをみたってそうである。

 


 こんなことをいっていたら、キリがない。

 


 ああ、ダメだ。

 意識をしたら、余計にかんがえてしまう。

 


 そこでやっと、意識が俊冬と俊春にもどった。

 


「お待たせしました」って、マジでいいそうになってしまった。

 


 が、かれらはおれをみていない。おれたちがのぼってきたほうをじっとみつめている。相棒もである。

 


 相棒は、立ち上がるとのぼってきた方向へ体ごと向いた。それから、ぶんぶんと音がするほど尻尾をふりはじめた。

 


 副長と斎藤もまた、俊冬と俊春と相棒のを追ったらしい。同様にそちらのほうへと体ごとむけ、を送っている。

 


 だれかが丘をのぼってきているんだ。

 


 相棒が尻尾を盛大にふっているということは、顔見知りである。

 


 ああ、そうだった。馬番の控え部屋をでるまえ、副長が島田にあとから丘にくるよう、いいつけていたっけ。

 


「おーい」

 


 ややあって、さしてひろくないの向こう側に、人影があらわれた。

 


 島田と蟻通である。

 その二人のうしろに、もう一人いるようだ。が、でかい島田のせいでも体もみえず、だれだかわからない。

 


「元気そうじゃねぇか」

 


 こちらの姿をみとめたのであろう。軽快な問いが飛んできた。だが、その声は島田たちのものではない。それをいうなら、バリトンのそのきれいな声は、どの隊士のものでもない。

 


 この声は……。

 


「土方、あいかわらず役者みてぇに男前だな」

 


 島田と蟻通をおしのけ、せかせかとちかづいてきたのは、幕末と明治期における最高の名医である。

 


 かれはそれだけでなく、新撰組のよき理解者である。

 


 会津侯が、実弟の桑名少将と松本を若松城にやるっていっていたっけ。

 


 ということは、松本はソッコーやってきたということだ。「法眼、お元気そうでなによりです。ええ。おれの男前は、どこにいようとすたれることはありませんよ」

「土方、いうねぇ。まっ、おめぇらしいってもんだ」

 


 松本は大笑いしつつ掌をのばし、副長の肩を力いっぱいたたいた。

 


 坊主頭に、でっぷりとした体に作務衣を着用している。

 


 そういう松本も、ちっともかわっていないようだ。

 


 って思っているなか、松本は副長のイケメンに両掌を伸ばした。みなが注目するなか、かれはいきなり副長の下瞼をめくった。

 


 ハグもそれなりに驚きだが、いきなり下瞼をめくるってどうよ?って、めっちゃびっくりしてしまった。

 


 下瞼をめくられているイケメンの驚きの