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おれと俊春がかぶって


おれと俊春がかぶってしまった。

 


「ちょっ、ぽち。子宮環 いまのもツッコミどころ満載すぎるんですけど」

 


 あわててツッコんでしまう。

 


 局長が笑いだす。豪快かつさわやかな笑いかたである。副長がつられて笑いだし、双子とおれも笑いがおさえられずに声をあげて笑う。もちろん、相棒も「ケOケン」笑いをしている。

 


 周囲に民家がなくってよかった。それでも、微風が五人と一頭の笑声を、遠くまで運ぶだろうか。

 


「総司の無念を晴らしたい、というのは恰好をつけすぎか?京で、総司が全力で木刀をふるったのが、いまだに忘れられぬ。労咳で、床で起き上がるのも一苦労であった総司が元気になれたのは、ひとえに剣術にかける意地、否、執念であったのであろう。あれをみ、正直、すべてにおいて総司に負けたと悟った。あのまま、宗家を譲ってもいいとまでもな」

 


 局長は言葉をきると、寂しげな笑みを浮かべる。「この怪我云々だけの問題ではない。わたしには、剣士としての気概も意地もなくなっているのではないのか、と。だが、そのわりには、ぽちたまが日野で真剣勝負に挑んだのをみ、内心で興奮してしまったこともたしか。すまぬ。わたしも、なんと申せばいいのか、わからぬ。ようは、最後に一度だけ、全力で剣をふるってみたい、ということだ」

 


 局長は、想いをいっきに語り、双子のまえに立つ。

 


「だったら、おれが・・・」

 


 副長が、せっかくのシーンをボケをかましてだいなしにしようと・・・。

 


「すまぬが、歳。だまっててくれぬか?おまえが相手だと、全力どころかほとんど力をださずにすみそうだ」

「ちょっ・・・、かっちゃん、ひどすぎやしねぇか?周斎先生から、一応、目録をもらって・・・」

 


 周斎先生というのは、「天然理心流」第三代目宗家であり、局長の才をみこんで養子にむかえた近藤周斎のことである。

 


「悪いが、歳。先生はもう亡くなられているゆえ、誠のことを語っても許してくれよう。おまえの目録は、いつもやる気のないおまえにそれをあたえておけば、すこしはやる気をだし、真剣に練習に取り組んでくれるのでは、という先生のであったのだ。結局それは、夢におわってしまったが・・・」

「はあああああ?ひでぇじゃねぇか。かようなこと、みながしったら・・・」

「みな、しっておる。ゆえに、総司も新八も左之も、申しておったであろう?「お情けの目録」、と」

「くそっ!ただ、揶揄ってやがるとばかり思ってた」

 


 語られる「試衛館」の真実。

 双子とおれは、笑っていいものか、気の毒に思ったほうがいいのか、ビミョーな気持ちになってしまう。

 


「まぁよいではないか、歳。事情はどうあれ、目録は目録。他流派のまえでは、胸をはっていろ。どうせ、まともに剣をふるわぬのだ。いまさら、気にすることもあるまい?」

「かっちゃん、いくらなんでもひどすぎねぇか?そりゃぁ、きたねぇはつかうことはあっても、たまにはまともにやりたいってときもあるんだよ。そのときが、いまのところないってだけだ」

 


 幼馴染みたいなものだからか?

 局長、けっこうきつくね?って感じてしまう。そして、あの副長がいい負かされている。

 


 二人の間、だからであろう。

 


「というわけで、ぽちたま。どちらか相手をしてくれぬか?」

 


 局長は、副長の肩を拳でどやしてから、双子に向き直って挑戦状をたたきつける。

 


「「天然理心流」第四代宗家近藤勇は、柳生新陰流にいざ、挑まん」

「おそれながら局長。流派をもちだされ、挑戦状をたたきつけられたからには、われらも全身全霊をもって受ける所存。となりますれば、怪我のことなど・・・」

「たま、いっさい考慮するな。否、してもらいたくない。なあに、この一度きり。潰れてしまおうがひどくなろうがかまわぬ」

「承知いたしました。その心意気におこたえいたしましょう。ただ、われらは流派にこだわらぬ剣をつかいたく」

「無論。やれるだけでいいのだ」

 


 俊冬が挑戦をのむと、俊春がさりげなく一歩まえへでかける。すかさず、俊冬は、四本しか指のない掌をかすかに動かす。すると、俊春の動きがとまる。を絡めあう双子。もちろん、おれに双子の無言のやりとりをよむことなどできるわけもない。

 


「なれば、わたしが胸をおかりいたします」

 


 それも数秒のこと。俊冬がずいと歩をすすめる。

 


 正直、ちょっと意外である。こういう役割は、俊春がするものなのに・・・。

 


 副長がそれをツッコミ、理由をきいた。

 


 するとかれは、弟だとやさしすぎて本気をだせぬとか、途中で泣いてしまうかもしれぬとか、とってつけたように並べた。

 


 たしかに、そうかもしれない。が、そう答えた俊冬の

 


 ボケてしまった父親にいうように、副長は掌を伸ばすと局長のぶっとい腕をつかみ、同時に