「三津,今日は俺と夕餉食べるだろ?」
突然の誘いに三津は目を瞬かせた。吉田はちらっとサヤを一瞥する。するとサヤはすぐに察知して笑みを浮かべる。
「では桂様の部屋にお運びしますね。三津さんも賑やかな方が楽しいんですよね?」
「そうですね!みんなで食べます。」 gaapiacct.pixnet.net
『やっぱりか……。でもここは仕方ない。』
外でどうなるか様子を窺ってたが予想通りの展開。それも三津の為だと言い聞かせて自室に引き上げた。
「……で。何で君達もいるんだい?」
部屋には五人分の膳。
「みんなで食べる方が楽しいと聞いたので。」
と澄ました顔の入江。
「アヤメさんにこっちに用意されてると聞いたので。」
自分はおまけだと少し腑に落ちない顔の久坂。
「俺は三津に……。」
「誘ってない。三津は誘ってないぞ。」
桂は即否定した。「私を元気付ける為やとしたら私が誘ったようなもんなんで……。」
睨み合う二人をまぁまぁと宥める。
「サヤさんとアヤメさんと話したらだいぶ楽になりましたよ。」
そう言って笑う目元は嘘をついてる様子もなく全員がほっとして顔を綻ばす。
『……拳骨の事聞きたい。でも土方の話題は出したくない。』
吉田はどうにか聞き出す方法はないかと思考を巡らせていると入江が口を開いた。
「そうだ三津さんに聞きたかったんですが何で壬生狼の女中やってたんです?」
久坂はお前今それ聞くの?と言う目で入江を見た。入江は純粋に何で?と三津に回答を求めている。
「道端で動けなくなったとこを土方さんがおぶってお店まで連れて帰ってくれたんですよ。そのお礼がしたいって言ったら女中する事に。」
でも結局裏切ってここに居ますと自分自身を嘲笑した。
「じゃあ土方は客じゃなかったんですか。土方が甘味屋なんて似合わないと思ったんだ。」
入江はそうかそうかと頷いた。
「土方さん甘い物食べませんからね。お客さんは沖田さんです。
よく来て子供らの面倒見て帰ってくんです。」
「確かによく来てたね彼は。一度鉢合わせた。」
吉田はふっと笑みを浮かべながら煮物をつついた。
「それ!ホンマに焦りましたよ……。沖田さん全然気付いてなかったけど……。」
今思い出しても心臓に悪いと大きく息を吐いた。
「だって沖田はあそこに行くと周りを見てなかったからね。」
それを聞いて箸を動かす手をピタリと止めたのは桂だった。
「俺はね三津,沖田に心底同情してるんだ。」
三津は何で?と首を傾けて吉田を見つめた。
「あの日沖田は三津を誘ったろ。一緒に出掛けたいと。でもお前は何て答えた?
覚えてる?宗太郎の所に遊びに行こうと言ったよ。」
それを聞いた久坂と入江はぶふっと味噌汁を吹きかけて何とか押し留めた。
「彼はだいぶ奥手みたいできっと周りの客達の力を借りてようやく口に出来たというのに……報われないよね?」
三津は何を言ってるのか分からないと首を傾げたままより目を丸くした。
「まぁ……今はいいや。追々説明してあげる。」
「気になるから今教えて欲しいんですけど。」
吉田は意地悪く笑みを浮かべながら煮物を口に放り込んだ。『沖田もお前に気があるなんて言えば余計に混乱するだろ。』
だから今は言わないよ。と心の中でただ笑う。
「斎藤一は,三津さんにはどんな男に見えました?私達は奴らが剣の腕が立つかどうかぐらいで,刀を通しての奴らしか知らない。
だから人として……どんな人間か興味がある。」
入江の真面目な口調に三津は一瞬驚きの色を見せたがすぐに口元を緩めた。
「斎藤さんは掴み所のないふわふわした人ですね。
あ,それとお酒が好きで冗談もたまに言う面白い人です。無口で無表情かと思わせて結構笑いはる。」
『あれが冗談を言って笑う?』
「全っ然そんな男には見えなかったけど。」
対峙した夜を思い出して,吉田はそれこそ冗談だろ?と怪訝な顔をした。