Return to site

もまったくちがうのに


もまったくちがうのに、それでも重ねている。

 


 原田もふくめ、寂しがりやなのである。肺癌篩查 兄や親のごとく、み護り面倒をみたいのである。

 


 こういうのを、父性愛というのであろうか?「それにしても、兄弟そろって傷だらけですね」

 


 双子ともに、傷だらけ。俊冬の頬の刃傷もくわえ、やんちゃすぎますって感じである。

 


「まっ、二人ともまぁまぁの顔立ちだ。傷だらけでもずっとましだ」

 


 原田は、こちらにをはしらせる。

 


 その をはしらせる。

 


 その に、隣に立つ斎藤も気がつく。

 


「ちょっと原田先生、だれと比較して、ましだとおっしゃるんです?」

 


 口をとがらせ、尋ねる。

 


「おまえだ」

「おぬしだ」

「おぬしにきまっておろう」

「主計、おぬしにちがいない」

 


 ソッコー返ってきた。しかも、五十歩百歩の斎藤まで・・・。

 


「おれ、そんなにひどいですか?マジで、そこそこイケてたんですよ」

 


 自己申告する。すると、四人がいっせいにふきだす。

 


「わるいわるい。主計、おまえは誠にいじり甲斐がある」

 


 にやにや笑いの原田。斎藤のさわやかな笑み。双子の痛みを我慢しているような笑み・・・。

 


「土方さんと新八のこと、悪かった。どんだけ傷つけちまったか、二人とも、おれたちよりもよくわかってる。それから、おまえらが、どんだけの想いでいるかってことも」

 


 笑いをおさめ、原田がまた謝罪する。

 


 幼少時に受けた性的虐待。それを目の当たりにした、いや、自分も受けていたのであろう俊冬。二人とも、そのトラウマを抱えながらでも、できるだけ他者を傷つけないという信念を貫いている。

 


 正直、その誠の気持ちはわからない。すさまじい精神力としか、表現のしようもない。

 


 おれもふくめ、そのことに触れるつもりはない。

 いつか、かれらのほうから話してくれるまで・・・。

 


 


「 を、いやにならないでほしい」

 


 原田が、ぽつりと付け足す。

 


 おれは、無意識のうちに握り拳を双子のまえへだしていた。

 


 すると、俊冬が、それに自分の拳をうちあわせてくる。ついで、俊春も同様に。

 


 内心、驚いてしまう。

 


 日本人にはない、ジェスチャーであるから。

 


 まぁ異国人と交流があれば、しっていても不思議ではない、か。

 


「拳と拳を打ち合わせるっていうのは、了解したとか挨拶とか、異国人がつかう表現なのです。ほら、言葉にはしにくいことでも、こういった表現で代用できたら、それが一番ですよね。心と心がつながる、みたいな」

 


 原田と斎藤に教えると、かれらは、なるほどとうなづく。それから、双子と拳を打ち合わせる。「まて、弟よ。なにをする?」

 


 斎藤がせしめてきた酒を、俊春が酒瓶をかたむけ口にふくむ。

 俊冬がそれをみとがめ、問う。

 


 俊春は、すでに酒を口中に含んでいるため、答えられるわけもなく・・・。

 


「ぶっ!」

 


 兄の に向け、酒を盛大にふく弟。

 


「げえっ・・・。わざとであろう?かようなときは、布に酒をふくませぬぐう。しっておるくせに・・・」

 


 俊冬は、シャツの袖で をぬぐいつつ、笑っている。

 


 俊春も笑う。

 


 


 心の傷は、消えない。一生、つきまとう。

 たとえどれだけ強い でも、それはおなじこと・・・。

 


 深更、二人はなにごともなかったように、鍛錬をやっていた。

 


 いつもとおなじように・・・。 朝餉・・・。夜も交代で見張りをする為、朝からみな、食欲旺盛である。ゆえに、夕餉と同様、ボリュームのあるメニューだし、量である。

 


 大根の煮物、鰊の焼き物、野菜を菜種油で炒めたもの、わかめの酢の物、海苔に香の物。栄養のバランスもばっちりである。

 


 玄米と白米の飯は、いくつものお櫃におさまっている。お櫃は、仮の屯所からもってきたらしい。

 


 隊士たちが交代で食し、最後におれたちである。

 


 忙しい俊春にかわって、相棒にはおれがもってゆくことに。隊士たちがまだ喰っている間に、厨からそそくさと運ぶ。

 


 ってか、フツーに考えれば、ふだんからおれがすべきことなのでは・・・?

 


 子どもらが拾ってきた犬を、結局は母親が面倒をみる、とおなじことでは・・・。