「利三郎っ、てめぇっ!」
副長の怒声が、避孕藥 若松城内に響き渡った。
途端に、再会をよろこびわいているみんなの動きがぴたりととまる。
副長は目標を定めたのか、ずかずかとあゆみつづける。すると、むらがっている隊士たちが慌てて左右にどきはじめた。
副長は、みんながどいたことでできた道を、モーゼのごとくあゆみつづけてゆく。そのさきには、俊冬とそれから……。
「そういえば、此度の転戦で利三郎をみなかった気がするが……」
島田が、だれにともなくつぶやいた。
「それどころか、「清水屋」をでてから一度もみかけていない気がするのは気のせいなのであろうな」
斎藤もつぶやいた。
「清水屋」は、おれたちが投宿していた七日町にある宿屋である。
「気のせいではないぞ。いなかったのだ。みかけなくて当然だ。あの野郎、こっそり抜けて若松城にいたにちがいない」
さらなる蟻通のつぶやき……。
いわれてみれば、野村をみなかった。おれの記憶では、「清水屋」を出発する日の朝、隊列からすこしはなれたところで立っていたのをみかけたのが最後である。
その利三郎は、俊冬のすぐちかくでしれっと感動の再会を果たしている。
おいおいおい……。
いまでもこの調子である。もうさほど遠い
全員の冷たすぎる
きっとおれのもちろん、手助けしていることを恩に着せるつもりはない。伝習隊は兎も角、は、京で会津藩に受けた恩を返したいだけなのであるから。
もともとちゃんとした士分ではない者が大多数をしめるは、京で会津藩に受けた恩を返したいだけなのであるから。
もともとちゃんとした士分ではない者が大多数をしめるであるかれらにたいして、不甲斐なく思うとともに呆れたり憤ったりしたのはもう過去の話である。を想い、主君を想うというのは、ほんの一握りなのかもしれない。
それをかんがえると、白虎隊の隊士たちの想いは誠のものである。あらためて、すごいと思わざるをえない。
生まれてからすりこまれているがゆえに、妄信しているといえばそれまでである。が、それならおなじ条件で育ち、成人している大人もそれを維持しつづけていなければならない。
大人はきっと、いろんな知恵がつき、そこに打算がくわわってしまう。主君のため、藩のためという忠誠心や武士道というものは、いつしか薄れてしまうのかもしれない。
そんな愚痴っぽいことは兎も角、若松城にもどって留守番組や本隊と再会してからが大変であった。
もちろんそれは、俊冬にとって、である。
それはそれはもう、副長やおれたちが会津にやってきてかれらと再会したときの比ではない。熱烈強烈、ついでに熾烈なまでの歓迎っぷりである。
副長もおれも複雑な思いを抱きつつ、もみくちゃにされている俊冬をみつめている。
ちなみに、働き者のわんこである俊春は、帰城するまでに一人とって返してしまった。敵の様子をみに舞い戻ったのである。
そんな熱狂的な再会シーンが繰りひろげられているなか、安富が沢と久吉をともなってやってきた。
まず安富は、「豊玉」と「宗匠」がなにごともなかったかをたずねた。いや、詰問だったといってもいい。なにごともなかったときくと、副長とおれを二頭の上からひきずりおろし、あらためて二頭の馬面をなでまわしつつ労をねぎらい、愛の言葉をささやいた。それからやっと、沢と久吉とともに、厩へと二頭を連れていった。
ではない宮古湾の海戦で、あいつが軍艦ストーンウオール号に取り残されて戦死するなんてこと、ぜったいにあるわけがない。
地球が丸いのとおなじように、あいつがそんなカッコいい死に方をするわけがない。それどころか、その海戦に参加するかどうかも疑わしい。
「てめぇっ!なにやってやがる?」
副長に怒鳴り散らされ、利三郎はわけがわからないっていった いまの副長の怒鳴り声は、若松城内に響き渡ったらしい。城内から、かなりの人数が飛びだしてきた。
周囲にいるほかの隊の兵士たちは、驚いてこちらをみている。
「なにをやってって、たまを歓迎しているんですよ」
野村は、さもそれが当然であるかのように応じる。
あそこまでいったら、「あっぱれじゃ」といってやりたくなる。
「歓迎だあ?どの面さげていってやがるっ」
副長がさらにブチぎれた。
「そうですよね」
野村は、じつに困ったようなになっている。
ご丁寧に、両掌を腰のあたりまで上げ、両肩をすくめ、欧米人風に心底困ってますというジェスチャーまで添えて。
さすがは現代っ子バイリンガルの野村である。
「江戸でたまを殴ってしまいました。どの面さげてって申されても、仕方のないことをしてしまって……」
それから、つづける。
おい、マジかよ?
心のなかでツッコんでしまったのは、いうまでもない。
「そこじゃねぇだろうが、ええっ!」
副長は、とうとうヒステリーを起こした。
島田と二人であわててとめにはいった。俊冬も同時に動いている。
このままでは、おおぜいのみているまえでどんな事態になるかわからないからである。
かさねて主張したい。
野村よ。おまえはぜったいに死なない。
海の上であろうと陸上であろうと、すくなくともこの戦ではなばなしく散る、なんてことはぜったいにない。
あらためて、かれの要領のよさとずる賢さを思いしらされた出来事であった。
ってか、かれがいないことにだれ一人気がつかなかったのも、どうよっていいたいのであるが……。