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なんて如何でしょう」


、なんて如何でしょう」

 


「桜司郎……」

 

山南に提案された名を呟く。 植髮 沖田の幼名は宗次郎といった。音もそれと似ており聞き慣れているせいか、やけにしっくりと来た。

 


 


「で、でも何だか気恥ずかしいですね。自分から一文字付けるだなんて…」

 


何だか自分の物だと主張しているようだ、と沖田は耳を赤くする。

 


 


「おや、総司は嫌ですか?あれだけ慕ってくれているのだから、彼も悪く考えないと思いますがね」

 


「嫌では無いです……。桜司郎…うん、良いですね」

 


手にしている短冊に桜司郎と書いた。

他に思い浮かばないのも事実であるため、それを理由に提案してみようと沖田は決心した。

 


 


「では、伝えていらっしゃい。彼は確か、壬生寺で稽古をしていましたよ」

 


 


山南の促しに沖田は笑みを浮かべると、部屋を出て草鞋を履く。そして壬生寺へ向かった。木刀が風を切る音が通りに小さく響く。

その音の主は桜花であり、懸命に稽古を重ねるその姿は好ましかった。

夕焼けに照らされながら一心不乱に木刀を振り続けるその姿は、まるで儚い狂い咲きの桜のようである。

 


沖田の存在に気付いたのか、桜花はふと手を止めて通りの方へ目を向ける。

 


 


「沖田先生ッ」

 


「桜花さん、こんばんは。今日も熱心ですね。あの……その、昼間の件ですが…」

 


沖田は短冊を手にしたまま口ごもった。

どうにも恥ずかしさの方が勝る。

 


 


「名前の事ですね。もしかして、もう考えてきて下さったのですか?」

 


「ええ……。山南先生が殆ど考えてくれたような物ですが…」

 


嬉しそうに目を細めて笑うその姿を見て、ますます緊張を高めた。沖田は深呼吸をすると、短冊を桜花の目の前に突き出す。

 


桜花はそこに書かれた文字を見つめると、口に出して読み上げた。

 


「読み方は…おうじろう、で合ってますか?」

 


「ええ…」

 


「桜司郎…桜司郎……」

 


 


桜花は身に染み込ませるように、何度もその名を呟く。沖田は目元を染めると、いたたまれずに視線を逸らした。

 


それとは反対に、桜花はみるみる表情を明るくする。

 


「有難うございます…!素敵ですね。"司"の字って…もしかして…」

 


恥ずかしかった理由の一つを指摘され、沖田は肩を跳ねさせた。

 


「そ…そうです。私の、"総司"から一つ取りました。嫌でしたら遠慮なく言って下さいッ!また考えて参りますから!」

 


 


沖田は捲し立てるように言う。しかし桜花は首を横に振ると沖田から短冊をそっと取り上げた。そしてそれを胸に抱き、花が綻ぶような笑みを浮かべる。

 


 


「嬉しい。…本当に嬉しいです」

 


「そんなに嬉しいですか…?」

 


「はい。がましいと思って言いませんでしたが、私…沖田先生の背中を守りたいと思っていたのです。この名を頂けたら、それが許されたような気がしました。って…、都合良いですかね」

 


 


桜花も恥ずかしそうに言葉を並べた。それを聞いた瞬間、沖田は感じていた気恥ずかしさを忘れて口元を緩める。

 


 


「いえ…。嬉しいですよ。貴女になら安心して任せられます。よろしくお願いします、桜司郎さん」

 


「はい。"鈴木桜司郎"、名に泥を塗らないように頑張ります」

 


 


沖田は心の何処かで本当にこれで良かったのかと思っていた。しかし桜花の笑顔を見てその思いは杞憂だったと胸を撫で下ろす。として生きるのがこの人の幸せなら、私はそれを守れるように尽くそう── ある日。

桜花改め、桜司郎は非番だったが山野に捕まり、掃き掃除を共にさせられていた。

 


 


「なあ、桜司郎。君の思想は尊皇攘夷派なのか?それとも佐幕派?」

 


山野は竹箒を片手にしながら桜司郎へ問いかける。来た、と桜司郎は内心思った。武士とは決まってこの手の話をやたらとしたがる。

 


だが桜司郎はいつもこう返していた。

 


 


「私には