「ええ。以前より、暦をしっかり見るようになりました」
ひゐろは笑った。
「……師走の日曜のせいか、今日はお客さんが待機していない。しばらくここで待ってくれ」
「はい」
ひゐろは口入れ屋で、お客さんを待つことにした。
戸口を出て行こうとする事務員に、再びひゐろは話しかけた。【脫髮】頭瘡會導致脫髮?即看頭瘡成因、預防及治療方法 @ 香港脫髮研社 :: 痞客邦 ::
「……そういえば、最近依子さんを見かけませんが、お元気ですか?」
「元気だよ。相変わらず彼女は、売上がいい。この不景気に、固定客を増やしている」
「やりますね」
「まぁ、色仕掛けもあるんだろうけど。むしろ経営者は、そこを歓迎しているんでね。初子くんも頑張りたまえ」
「……」
事務員はそう言うと、高らかに声を上げて笑った。そして、戸口から出て行った。
やはりそれが実態なのか、とひゐろは思った。
五分もしないうちに、事務員は戻ってきた。
「初子さん、お客さんだよ。それじゃ、お願い」
「わかりました」ひゐろは、すぐに外へ出た。
「おはようございます。オートガールの方ですか?私は京橋で旅館を営んでいる者です」
三十代と思しき男はハンチングを被り、着物の下に白い洋服のシャツを着ていた。
「本日のお客様ですね。初子と申します」
「不況といえども、銀座は華やかですね。店頭に、英国製の時計やのコルセットが並んでおりました。目がめるようです」
「旅館を営んでいるというのは、素晴らしいですね。師走ですが、本日はお休みなのでしょうか」
「……いや、旅館は父の代から継いだだけだよ。これから繁忙期を迎えるので、気分転換をしたいのでね」
旅館を営む男は、懐から古い懐中時計を取り出した。
「早いな。もう十一時です。行きましょう」
旅館を営む男は運転席から手を差し出し、ひゐろの手を引っ張って車に乗せた。
「行きたいところがあるんです。そこへ行って良いでしょうか?」
「もちろんです。どこでしょうか」
ひゐろは、少し強引な男だなと思った。
「『竹屋の渡し』です。船に揺られてみたくなって。隅田川の渡し船に乗りましょう」
「良いですね。たまには、車以外の乗り物に乗るのも良いですね」旅館を営む男は、八丁堀方面に車を走らせた。
「これから繁忙期を迎えると言ったけど、本当に忙しくなるんだろうか。全くもって不況だからね」
「……影響しますか」
「もちろん影響するよ。を大盤振る舞いする客が減ったよ。残念だがね」
「…茶代というのは、何でしょうか」
ひゐろがたずねると、旅館を営む男は声を上げて笑った。
「お若いから、ご存じないかもしれないな。旅館によって、支払わなくてはならないことがある。うちは宿泊料の五割をしているけどね。かつては、宿泊料の三倍や五倍を支払う客がいたんだよ」
「心づけとは、違うのですか」
「似たようなものだね。を大盤振る舞いすれば、良い部屋に通してくれる。そういうものだよ」
車は、日本橋へと進んだ。
「これから隅田川沿いを走るが、結構寒いかもしれないな」
「今日は気温も高いですし、天気も良いです。風が強くなければ大丈夫です」
「そうか。竹屋の渡しから舟に乗って向島に着いたら、飯でも食おう」
「はい」ひゐろは、しばらく隅田川を見つめていた。川面がきらきらと輝いて、眩しいほどだ。
「もうすぐ浅草だ。竹屋の渡しはもうすぐだよ」
それから五分もしないうちに、竹屋の渡しの舟着場に着いた。
旅館を営む男は、川縁に車を停めた。
すでに十人ほどの人が、舟を待っている。
「思いのほか、親子連れが多いな」
旅館を経営する男は、驚いたように並んだ客を見つめていた。
「今年から、を採用するようになりましたからね。たとえば三栄呉服店は、第一と第三日曜日を