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俯いたままだんまりになってしまっ


俯いたままだんまりになってしまった三津を桂はちらりと横目で見た。入江がその背中を上下に優しく撫でながら鋭い目でこちらを見ていた。

 


 


「それで?続きをどうぞ。」

 


 


「……追手が迫っていたから広戸さんの提案で荒物屋の婿に入って広江孝助と名乗り……広戸さんの妹さんを嫁にもらった。荒物屋を営む夫婦として周りを欺く為の偽装縁組だった。」

 


 


三津は黙って俯いたまま今までの話を頭の中で整理しにかかった。【脫髮】頭瘡會導致脫髮?即看頭瘡成因、預防及治療方法 @ 香港脫髮研社 :: 痞客邦 ::

 


 


『私に出来る事は留守番で幾松さんには危険の伴う事を頼んではったん?うわぁ,すでにそこで頼られてない……。

それで?脅されて抱いた人が懐妊?敵を欺く為に結婚?どこからどう突っ込めばいいか分からん……。

でも向こうでの生活を話したがらへんかったのには納得や……。』

 


 


桂を信じて待っていた自分が滑稽で笑けてきた。

 


 


『兄上……私は何の為に生きてるか分からなくなりました……。』

 


 


桂の為に生きようと決意したのに自分はこれっぽっちも頼られていないし,自分が居なくても桂は自分以外の誰かを頼って上手くやっている。女にも困ってない。じゃあ私は何?

 


 


「ふっ……ふふふっふふっ……。」

 


 


俯いたまま急に笑い出した三津に桂も幾松も小さくビクッと肩を跳ねさせた。

 


 


「三津さん?」

 


 


入江が気を確かにとその手を握る。そこでようやく三津は顔を上げた。

 


 


「私は留守番で幾松さんには危険な事をお願いするんですね。私全然頼りにされてない。

それに,その身篭った方の事も,結婚しはった事も,逃げ延びてこの先に繋げる為に必要な事やったと言わはるなら,私にはそれをとやかく言うなんて出来ないやないですか。

小五郎さん狡いです。私にその不満をぶちまける道すらくれはらへんのですね。」

 


 


「三津……それは……。」

 


 


「私は……小五郎さんの何なんでしょう?

話はこれだけですか?私お急須割ってもたから新しいの買いに行くんで失礼します。

幾松さんは長旅でお疲れでしょうしゆっくりなさって下さい。では。」

 


 


三津は一度も桂の目を見る事なく立ち上がって部屋を出た。想像以上の修羅場に廊下にいた奴らは三津に何の言葉もかけられない。

 


 


「三津待ってくれ!」

 


 


桂は慌てて後を追いかけ三津の手を掴んで引き止めたが,

 


 


「触らんとって。」

 


 


ここでも一切桂の顔を見ずにその手を振り払った。そしてそのまま廊下を走って行ってしまった。

 


 


「武人さん,すみません三津さんを頼みます。」

 


 


「俺か!?おう……分かった。」

 


 


入江に頼まれた赤禰は戸惑いながらも三津を追いかけた。「ほんっとに貴方達二人は三津さん傷付けるの得意ですよね。

幾松さん,忘れたとは言わせませんよ?土方の一件。私はあれは貴女と桂さんに大きな責任があると思ってますからね。」

 


 


「お三津ちゃんがここに居てるなんて思わんかったんやもん!ホンマやったら聞かせる気なかったわ!こんな話聞かせたらどうなるかくらい分かるし……。せやけど聞かれてもたんやししゃーないやん……。」

 


 


幾松は口を尖らせ私だって不本意だと言った。

 


 


「九一,土方の一件ってなんや?」

 


 


高杉が俺は聞いてないと部屋に踏み込んだ。当時の事を思い出した伊藤は桂に鋭い殺意を向けた。

 


 


「その件に関してはどうぞお二人が説明してください。私は三津さんの傍に行くので。

思ったより早く愛想尽かしてもらえそうです。桂さんは幾松さんとどうぞお幸せに。三津さんは私が幸せにしますんで。」

 


 


入江は憎たらしい程の笑顔を残して部屋を出た。桂もそれを追おうとするが伊藤がそれを阻む。

 


 


「貴方に三津さんを追いかける資格はありませんよ?」

 


 


まだ聞きたいことは山ほどある。

 


 


 


 


入江は三津を探しに屯所内を歩いているとセツがこっちこっちと入江を手招いた。

三津は台所の隅っこに蹲っていてその傍らで赤禰が背中を擦っていた。

 


 


「三津さん。」

 


 


「九一さん……。」

 


 


三津はぐずぐず泣きながら入江の方へ振り返った。

 


 


「お急須買いに私と少し遠出せん?」

 


 


「遠出?」

 


 


「はい,萩は萩焼と言う焼物が有名で。」